パタゴニア主義に魅せられて

サーフ千葉ストアとのパートナーシップストーリー

アウトドアウェア、スポーツウェアを製造・販売しているパタゴニアの直営店パタゴニア・サーフ千葉ストアが、2011年6月11日(土)、日本有数のサーフポイントとして知られる千葉県・一宮エリアにオープンしました。
店の前の道路を横切り、海岸の松林を抜けるとそこはもう日本のサーフィンのメッカ。こんな恵まれたところにパタゴニア・サーフ千葉ストアは、「日本の歴史的な建造物をイメージできるような高床式で大屋根に覆われた回廊をもつ素朴な建物」というコンセプトのもと建築されました。

 

一宮に直営店を出店するにあたってパタゴニアがパートナーに選んだのがエルズホームでした。そしてエルズホームは土地の選定から建築部材の調達、建築会社の選定(最終的に一宮町の東日総業株式会社様に決定)、工事マネジメント、完成後のメンテナンスとあらゆる面にわたってパタゴニアのブランドコンセプトを基にして、パタゴニア・サーフ千葉ストアのコーディネートを行ってきました。

パタゴニアとエルズホームの出会いはシンプルでした。パタゴニアが一宮に出店するにあたり調査する過程で、担当の社員がエルズホームのホームページにアクセスされたことから始まりました。一宮で建築会社を営み、海に親しむ町民としての私(エルズホーム代表・進藤浩)をパートナーとして選んだのです。こうして私たちとの長いお付き合いが始まりました。それからまもなく、私はカリフォルニア州ベンチュラのパタゴニア本社の前に立っていました。パタゴニア主義を徹底して身につけるべく本社に招かれていたのです。

カリフォルニア州ベンチュラは1866年に市制が布かれた歴史ある町で、現在人口は約107000人のこじんまりとした都市です。山の手にはリタイアした人たちのヴィレッジがあり、海にはサーフタウンというように新旧が気持ちよく混じりあうすてきな町です。そしてパタゴニア本社はアンティークショップ、カフェ、ブティックなどが建ち並ぶメインストリートの突き当たり、サーフポイントのある海まですぐの一角に建っています。私が初めてここを訪れたときのエピソードには事欠きません。そのいくつかをご紹介しましょう。

ある日私は小さなミーティングルームに通されました。そこには年配の、笑顔のすてきな方が二人でコーヒー片手に話をされていました。お二人は私の連れ(パタゴニア本社に20年来お勤めの日本人)と打合せがあるらしく、その間私が手持ち無沙汰なのを察して、鍛冶屋も見ておいでと鍵を渡してくれました。そこはパタゴニアの創業当時の工場で、部外者は滅多に入れない場所と聞いていました。工場はトタン張りのごくシンプルな建て方の倉庫ですが、炉も、金床も、すべて創業当時のままに残されているのには驚かされました。後で、連れにあのお二人は誰?って聞くと想定外の答えが返ってきて2度驚かされました。パタゴニア本社の会長と社長だったのです!

またある時、サーフボードの仕上工場ではアセトンの匂いがまったくしないのには衝撃を受けました。日本の工場では匂いがきつく、慣れないと(慣れたくはないけど)気持ち悪くなったりするものなのに・・・。パタゴニアではガスが出にくい薬品を使っているからとの事。作業工程で作業者に負担のあるものづくりはタブーという会社のポリシーがそうさせているのです。

社員食堂でのランチではファミレス規模以上のオーガニックサラダバーに目を見張りました。その奥にはガラス張りの託児所があり、赤ちゃんがスヤスヤと眠っている。女性社員の姿が多く見られるのもこんな施設があるからなのでしょう。そしてこの託児所、会長夫人の発案でつくられ、運営されているとの事。常に働く環境を気づかい、来社される人への温かなホスピタリティー、会長夫人が率先して事に当たっているのでした。この一点だけでもパタゴニア主義の真髄に触れた気がしました。

さて、こうして帰国してからいよいよサーフ千葉ストアの建設が本格化します。パタゴニア主義を理想的に発揮させるための土地、建設業者、建築部材、インテリアパーツなどあらゆる面でのコーディネートワークが始まりました。今までの経験を存分に活かしながら、今までにないやり方もまた、経験させてもらいました。パタゴニアと度重なる打合せをこなしながら出来上がったのが、このサーフ千葉ストアです。
店内に、いや、駐車場に一歩足を踏み入れるとすぐ、みなさんはパタゴニア主義に出会うに違いありません。駐車場と周りとの境はゆるく仕切られているだけです。大きな木も深い茂みも、高い塀もありません。万が一の事故を考えて見通しをよくするようにと考えての結果です。駐車場の路面は、雨水が浸透するコンクリートで仕上げられています。地面の中の土やそこに生きる小さな生物、すなわち地球を思いやっての仕様となっているのです。

店の外観は高床式と大屋根、店をぐるりと取り巻く回廊など日本の伝統を彷彿とさせる、シンプルな中にもどこか懐かしさを感じるデザインとなっています。日本、そして一宮にあって古くからの伝統と周囲の環境に融合しようというコンセプトをいちばんよく表現しています。
大屋根には10kWhの大容量太陽光発電システムを設置し、そこから得られる電力をすべて近隣の家庭のために電力会社に寄付、環境保護の恵みを少しでも多くの人と共有しようとしています。そして自らの店内は発熱のないLED照明を取り入れたり、店の外にあるシャワーは太陽熱利用給湯システムによる温水を利用してムダな電力を抑制。その他、店内にはリサイクル思想を徹底させ、環境保護のプロジェクトや考え方に基づいたやり方が所狭しところがっている感じです。環境への気配りは、とにかく徹底しているのです。

地内のオープンスペースは、店舗と地域との環境的、社会的な調和を考慮し、地域の憩いの場やパタゴニアのイベントスペースとして使用される予定です。またサーフボードのシェイプができるように敷地内にはシェイピングルームを備え、環境配慮型のサーフボード製作の機会を特定のシェイパーに限らず、未来を担う若手のシェイパーにも開放されます。パタゴニアはアウトドアウェア、スポーツウェアのブランドに違いありません。しかし、実はそれは世界でも有数の環境保護ブランドでもあるのです。この徹底した環境保護思想、それこそまさにパタゴニア主義なのです。


省エネ、エコロジーが叫ばれる日本にあって、このような企業と出会えたことはエルズホームの歴史の中でもエポックメーキングなことであり、ひとりの人間としてもこの上ない幸せを感じています。これからもパタゴニア主義に忠実に、パタゴニアのために、そして地域のためにいい仕事でお返しをしたいと強く思っています。